小指、親指
カウンター越し遠くの位置から、車椅子の白髪の女性が、私をずっと見ています。
付き添いの女性は「喫煙所は何処ですか?」と私に聞き立ち去り、
付き添いの男性も「母さん、本探してくるわ」と言い残し、
女性はそのまま一人になっていました。
手足はやせ細っていて、眼鏡越しの眼は、何だか眠そう。
付き添いの二人が戻り、カウンターで貸し出し処理を行っている最中、白髪の女性が
「あんた、これかい?」と、私の前に小指を出して聞いてきました。
一瞬、なんのことだか分からず、それでも小指を出していたので、
これは果たして何かのサインなんだろうか、と変に深く考えてしまいました。
「ね、あんた、女の子だろ?」と次に言われ、ああ、だから小指か、と思い、
「あ…男…なんです」とネームを見せ、
すると名前を(間違いやすい漢字の読みを)スラっと読んでから、
「あらあ、可愛いこと」と、次は親指を出してニコリと笑い帰っていきました。
職員の人にその後「間違えられてたね、女の子って」と聞かれ、
「まあ、こんな髪型(現状マッシュボブ)ですからねー」と苦笑いをしました。
ところで手話では小指を「彼女」、親指を「彼」と示すようですね。
私の思うに、小指を立てるポーズって若い男が、これ見よがしに、
「彼女がいる」を示す、何か自己顕示欲に塗れた雰囲気がするのですが。
本当は「一応女、みたいなものです」とでも言いたかったのですが、
だからと言って、それを示す指は思いつかず。
小指を出していた時の白髪の女性は、目つきが鋭かったです。